コラム

第4回:ジュニア陸上と睡眠不足

第4回:ジュニア陸上と睡眠不足

 

適切な睡眠時間の確保は、健全な心身の発育発達、スポーツパフォーマンス向上、怪我リスク低減、さらには学力までにヒットする、因果関係がしっかりした重視すべき要因です。

 

ここでは、ジュニア期のスポーツ活動における睡眠の重要性と、睡眠時間確保に向けた様々な策について紹介します。

睡眠不足の悪影響

怪我リスク倍増

睡眠不足は、ケガのリスクを明確に引き上げます。ジュニア期のスポーツ選手を対象にした研究では、睡眠時間が6時間の人は怪我の発生率が70%以上だったのに対し、9時間の人は怪我の発生率が20%以下だったと報告されています。

※Milewski et al,(2014)より

 

 

また、7時間でも60%越え、8時間では35%程度と、睡眠時間が短くなるにつれてケガのリスクが大きく高まっており、8時間を切ると、それ以下の睡眠時間に対して怪我リスクが1.7倍になるとまとめられています(Milewski et al, 2014)。

 

選手の怪我を防ぎたければ、ストレッチやマッサージなどのケアよりも、見直すべきは「まず睡眠と練習量」です。

 

 

風邪の引きやすさ倍増

睡眠が6時間未満の人は、7時間以上の人に比べて、風邪を引くリスクが高まります(Prather et al., 2015)。←の研究では、5時間未満ともなるとリスクが2倍になっています。

 

 

特に中長距離の選手は呼吸気管支系からくる感染症が多いため、要注意です。風邪を引かずにトレーニングを継続できることは、言うまでもなく大切なことです。

 

 

認知、運動パフォーマンスの低下

睡眠不足だと、それだけで人間のあらゆるパフォーマンスが下がります。走る能力はもちろん、注意力も下がるため、不注意による怪我、事故のリスクも大きく高まると考えられます。

 

 

一晩の断眠は、血中アルコール濃度0.09%のほろ酔い状態と同レベル注意力の低下を引き起こす(Dawson and Reid, 1997)ことからも、ただの寝不足では済まされないレベルで注意力が下がることが分かります。

 

 

 

徹夜をしていなくとも、6時間睡眠を約12日間続けるだけで、一晩徹夜したのと変わらない程度の睡眠不足状態になるということも示唆されているので、意外と他人事ではないのが、この睡眠不足事情です。

 

 

そのほかにも、睡眠不足は身長の伸びを滞らせたり、太りやすくさせたり、抑うつ状態を促進させたり(子供のイライラが増えます)、授業中の集中力を下げたり、これがそのまま学力に影響したりと、とにかく悪いことだらけです。

 

 

ジュニア期ではまず背を伸ばすこと、ケガや事故を防ぐこと、学力を高めること、健全な友好関係を築けること、そのうえでスポーツに関わる基礎的な体力、運動能力の拡充を図ることが重要です。

 

 

睡眠不足は完全にこの逆をたどらせてしまうので、「スポーツ活動に取り組むこと」「適切な食事を摂ること」と並んで重要な要因として、その優先度合いを一段と高めて、向き合う必要があります。

推奨される睡眠時間

下図の通りです。スポーツに時間や学業に無理をして時間を割くよりも、この睡眠時間を確保する方が明らかに子供にとっては有益です。

 


※National Sleep Foundation's Sleep Duration Recommendations Chart. The chart has recommendations for sleep times by different age segments. The research paper was published in Sleep Health Journal in March 2015.
※This file is licensed under the Creative Commons Attribution-Share Alike 4.0 International

睡眠時間を確保しやすい環境づくり実践

睡眠の重要性が分かったとしても、実際に睡眠時間を伸ばすことは意外に困難な場合が多いでしょう。通学時間や学校の課題、塾、学校での朝練などあればなおさらです。睡眠の質低下に影響するスクリーンタイムも増えやすい時代です。

 

 

ジュニア期の選手はまだ家族の管理下で生活をすることがほとんどであり、子供の環境を整わせることができるので、まだまだ対策の余地が大きいのではないかと考えられます。

 

 

睡眠教育をする

このコラムを一緒になって読んであげたり、紹介することで、本人が自ら睡眠の重要性を理解することがまず大切です。

 

やらされる睡眠ではなく、自ら望む睡眠でないと継続ができません。

 

 

スマホをリビングに置かせる(目覚まし時計を買う)

スマホを持っていて、寝床近くで充電している場合、寝る間際までほぼ皆さん確実にスマホを触っています。光の刺激はメラトニンの生成を抑え、明らかに睡眠の質を下げるため、好ましくありません。

 

 

「寝室に入った時刻=眠りについた時刻」ではなく、ベッドで1時間近くスマホを触っている可能性もあります。想像以上に、現代の子供、学生は寝ていない…ということは想定しておくべきです。

 

 

できればスマホをリビングに置かせ、遅刻が不安な場合は目覚まし時計を利用させると良いでしょう。

 

 

朝食、昼食、夕食を極力決まった時間に

食事の時刻は体内時計を整える上で重要な意味を持ちます。決まった時間に朝食をとり、夜の遅くならない時間に夕食を終えておくことは、自然と早い時刻に入眠するための体内時計を整えてくれます。

 

 

朝食はパンだけ…などではなく、できれば目玉焼きや魚など、炭水化物とタンパク質をセットで摂ることが、体内時計をリセットするうえで好ましいと言われています。

 

 

休みの日もいつもと同じ時間に起こす

週末の寝だめは効かず、週全体の体内時計を狂わせてしまうため、避けた方が良いです。休みの日でもいつもと同じリズムで目を覚まし、眠りにつくことが理想です。

 

土日が不規則な生活だと、月曜から再度生体リズムを修正しなければならず、週前半の心身のダルさにつながります。

 

 

通学時間が短くなるような進学先を視野に

通学時間の長さは睡眠時間にダイレクトにつながります。通学時間が1時間違えば、3年間でスポーツ、学業成績ともに大差がつくと言っても過言ではありません。

 

ぜひ睡眠時間の面からも、進学先を考える視点をもってみてはいかがでしょうか。

最後に

ここまで長々と睡眠の重要性について紹介してきました。ご家族の都合もあるはずで、紹介したような環境づくりがなかなかできないことも多いはずですが、何か少しでも、子供の生活環境にポジティブなものが生まれるといいなと思っています。

 

 

そして何より、今最も大変であろう、保護者の皆様自身の健康を、第一に考えて頂けたらなと思っております。

 

「子どもの眠りを大切にするには、まずはあなた自身が眠りを大切にすることが、何より大切。」

 

By 神山潤先生(東京ベイ・浦安市川医療センター CEO)

子どもの睡眠 ー食、排泄、運動、学業との関連ー

http://www.j-kohyama.jp/pdf/201711051.pdf

 

 

参考動画(コーチのチャンネルでも、睡眠について力説しています)

参考文献

・Milewski et al. Chronic Lack of Sleep is Associated With Increased Sports Injuries in Adolescent Athletes.Journal of Pediatric Orthopaedics. 2014, 34(2):129-133
・Prather, A. A., Janicki-Deverts, D., Hall, M. H., & Cohen, S. (2015). Behaviorally assessed sleep and susceptibility to the common cold. Sleep, 38(9), 1353-1359.
・Dawson, D., Reid, K. Fatigue, alcohol and performance impairment. Nature 388, 235 (1997). https://doi.org/10.1038/40775
・Hirshkowitz et al. (2015) National Sleep Foundations updated sleep duration recommendations: final report. Sleep Health. 2015 Dec;1(4):233-243. doi: 10.1016/j.sleh.2015.10.004. Epub 2015 Oct 31. PMID: 29073398.
・神山潤(2017)子どもの睡眠 ー食、排泄、運動、学業との関連ー(http://www.j-kohyama.jp/pdf/201711051.pdf)